大阪高等裁判所 昭和59年(う)448号 判決
1 所論は,被告人の本件所得は主にカフェー店の経営から得られたものであるが,料理飲食等消費税(以下,本税という)の納税義務者はカフェー等において遊興飲食をした行為者であり(地方税法113条1項),経営者は特別徴収義務者として同税を行為者から徴収したうえ道府県に納入すべき義務を負うのであり,徴収された同税相当額は預り金であって収入(売上金)ではないから,本件ほ脱事犯の調査により判明した不申告分の本税相当額は,各年度の所得計算上未払金として所得から控除されるべきであり,仮りに徴収された本税相当額が収入に計上されるものとしても,経営者が徴収すべき本税額は,行為者が遊興飲食をしたつど料金によって具体的に確定しており,納入すべき本税額はそれを積算したもので,納税債務として客観的に確定しているから,本税の申告等の有無にかかわらず各年度の所得計算上その所得から必要経費として控除されるべきであると主張する。
そこで考えるのに,昭和44年以前の課税実務においては,所得税法36条1項,37条1項に関し,本税相当額は収入金額にも必要経費にも算入しない,いわゆる「預り金経費」の方法によることが建前とされていたのであって(旧「所得税基本通達」255),この取扱いにも一理なしとしないが,これによると,売上げの計上洩れがあっても,その部分は本税部分であるとか,それが含まれているとかを理由に実際に納入するかどうかわからないものまで収入金額でないと主張されたりして,本税の課税の実態と遊離することになるところから,「……料理飲食等消費税……は,消費者……から領収する金額を総収入金額に算入し,申告,更生若しくは決定又は賦課決定により納付する金額を必要経費に算入する。」(昭和45年7月1日付「所得税基本通達」37-4)旨のいわゆる「両建経理」の方法による取扱いがなされるにいたったのであり,この取扱いは納入義務確定前における本税の性質並びに本税課税の実態に即したものであり,かつ徴税の適正公平を期する見地からも妥当な方法というべきである。
2 次に,本税をどの年度の必要経費に算入すべきかについて,所得税法37条1項は,その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額はその年において債務の確定していることを要件としており,その年分の各種所得の金額の計算上必要経費に算入する国税及び地方税は,「その年12月31日までに申告等により納付すべきことが具体的に確定したものとする。……ただし,その年分の総収入金額に算入された……料理飲食等消費税のうち,その年12月31日までに申告期限が到来しない税額」については,「当該税額として未払金に計上された金額のうち,その年分の確定申告期限までに申告等があった税額に相当する金額は,当該総収入金額に算入された年分の必要経費に算入することができる。」(前示「所得税法基本通達」37-6)とされているところ,本税の納入義務は,納入申告書の提出(地方税法119条2項),更正または決定(同法124条)により確定するのであるから,本税相当額は,右の納入義務の確定した年の事業所得の計算上必要経費に算入されることになる。
ところで,大蔵事務官作成の昭和58年8月22日付査察官調書2通(うち1通は当審取調べによるもの)によれば,被告人は昭和55年ないし同57年の各年度において本税の1部を申告,納入した事実は認められるけれども,ほ脱所得税に対応する本税相当額については,各年度の所定期限までに納入申告をし,または更正,決定を受けた事実は認められないから,これを本件各年度の事業所得の計算上必要経費として控除することはできないわけである。以上のとおりであって,所論は採用できない。
3 次に,所論は,右1の主張が認められないとしても,被告人は昭和58年11月1日より自己の経営していたカフェーを全て法人化し,個人事業を廃止したから,被告人が昭和59年8月28日付の更正により納入すべきこととなった本税額は,所得税法63条によって事業廃止の年またはその前年(同57年)の所得の計算上順次繰上げ,必要経費として処理すべきであるという。
しかしながら,所得税法238条1項に定めるほ脱税のほ脱税額(犯則税額)はほ脱事犯の成立時点において確定すべきものであるから,ほ脱事犯の成立後に事業の廃止があり,廃止後に費用または損失が生じたとしても,ほ脱事犯の成立時に必要経費として具体的に確定していなかったものが遡って犯則損金となることはあり得ないのであって,ほ脱事犯の成立時点において確定された犯則税額が,後発的事情によって消長をきたすことはない。
本件においては,本件各年度のほ脱事犯が成立した法定納期限後である昭和58年11月1日に被告人の個人事業が法人成りして廃止となり,廃止後の昭和59年8月28日付の更正により所論の本税額が確定し,費用が発生したものであるから,同税額が遡って犯則損金とならないことは明らかであり,所論は採用できない。